<オーム社 エレクトロニクス9月号 記事>
●視 点●
行政手続きを電子申請で

・・電子政府、UI、ネットワーク、標準化……

この記事はオーム社「エレクトロニクス 2000年9月号」に記載されたものです。

電子申請推進コンソーシアム事務局/ジェットフォーム・ジャパン製品統括部 小島 英揮

 政府は昨年、内閣総理大臣決定の「ミレニアム・プロジェクト」として、政府が民間から受け付けている申請・届出といった各種の行政手続きを、インターネットを利用しペーパーレスで行える「電子政府」の基盤構築を2003年(平成15年)までに実施することを公表した。この流れを受け、中央省庁のみならず各地方自治体においても申請・届出等の手続きの電子化、オンライン化への動きが加速してきている。

■電子申請に求められるもの
 これらの申請・届出等の電子化、オンライン化への動きというのは、決して中央省庁からの指導だけではなく、申請者側からも高いニーズがある。
 これに関しては面白いデータがある。三菱総合研究所の調べによると、住民の6割が自分の住んでいる自治体のホームページを「利用していない」という実態がある一方で、自治体のホームページに望むこととしては「各種申請・届出の受付け(45.9%)」、「公共施設の利用受付け(41.9%)」、「各種証明書の発行(38.8%)」など、いわゆる「窓口サービス」へのインターネットの活用要求が上位を占めている。
 つまり、住民は自治体のホームページを使いたくないのではなく、「必要なサービスが提供されていない」から利用していないだけなのである。こうした申請者側のニーズをうまく取り込んでいかないまま電子化・オンライン化を進めても技術だけが先行し、本来の行政サービスの向上につながらない結果となってしまう恐れがある。
 「電子申請」と書くと何かとても敷居の高いシステムやインフラのように感じてしまうが、IT業界の目で見ると民間企業でいまや常識化している各種のインターネット・サービスの構築と基本的には変わるところはない。利用者側からしても、例えばインターネットでチケット予約や品物の配送ができるのと同じ感覚で、住民票の配送サービスが受けられたり、パスポートの申請・発行ができたりすること(それも24時間、自分の都合の良い時間に)は非常にメリットがあり、そのようなサービスの実現を望む声が大きいのはきわめて自然といえる。
 しかし、民間企業と違い特定のサービス、手続きだけの電子化、また特定の人だけが使えるオンライン化では「電子申請」の本来の目的は達成できない。すべての人があらゆる申請・届出を24時間インターネットで行えるようにすること、すなわち「ワンストップ・ノンストップ」でのサービスが実現できないと、本来の行政サービスの向上にはつながらない。
 一方、すべての行政サービスがインターネットでしか受け付けられなくなったらどうだろうか? インターネットが普及したといってもその普及率は20歳代でやっと50%、50歳代だと男性は20%台、女性に至っては10%台とまだまだ低く、世代間で格差があるのが現状である。たとえインターネットが電話なみに普及したとしても、PCやキーボード操作になじめない人たちや、インターネット接続ができない人たちは「Digital Divide」ということばに表されるように届出・申請が非常に困難なものとなってしまう。これでは行政サービスとして十分とはいえないが、そうかといっていつまでも電子化に取り組まなければ何も始まらない。すべてを一気にオンライン申請にもっていくのではなく、社会インフラや利用者のリテラシーにあわせて徐々に導入していくのが現実的なステップと考えられる。
 すなわち、当初は申請・届出様式のインターネットによる配布から始めて、最終的にインターネットによるオンライン申請(データのやり取り)まで持っていくというステップである。この移行期においては、「紙」による申請と「電子申請」が同時期に存在するということになる。また、電子申請においては利用者に負担のかからない使いやすいUI(User Interface)の提供がカギとなってくる。
 また、紙での申請・届出を考えてみて欲しい。紙ではハンコや署名による原本確認や窓口での本人確認など、情報の改ざんや漏洩に対する手段が講じられているが、これをいかに電子化された手続きの中に盛り込んでいくかも課題となる。


■XMLへのフォーカス
 また、電子申請となるとどのようなデータ形式で申請データを扱うのかも重要な課題となる。データ形式に関しては「XML」(注)を使うことがもっとも有効と考えられている。「XML」利用のメリットとしてはデータの可読性や、拡張が容易であることなどがあげられるが、もっとも大きなポイントは、特定のアプリケーションに依存しないきわめてプレーンなデータ形式であるということであろう。通常のデータはアプリケーションに依存しているが、XMLは逆にアプリケーションのほうがXMLに対応する形が主流である。
 このことは、異なるシステム間(中央省庁と各都道府県の間など)でのデータの流通性が良ュなるばかりでなく、長期保存にも耐えうることを意味しており、まさに行政システム向けのデータ形式といえる。ただし、便利で使いやすいデータ形式である一方で、プレーンなデータであるがゆえに改ざんや盗聴に対するセキュリティ確保が必要になってくる。
 ここまでの話でいくつかのキーワードが見えてきたと思う。すなわちインフラとしてのインターネットの活用、データ形式としてのXMLの採用、プロセスとしての「紙」と「電子」のハイブリッド化、そして誰もが使いやすいインタフェースとセキュリティ基盤の実現である。  セキュリティ基盤については、GPKI(Government Public Key Infrastructure。政府認証基盤)という形で官側での基盤整備が進んでいる。中央省庁では通産省、運輸省、郵政省が平成12年度中に整備し、13年度に運用開始を予定しているのをはじめ、その他の省庁でも平成15年度まで整備するなど具体的な動きとなっている。さらに、自治体においても自治省において都道府県および政令指定都市に対しては平成13年まで、その他の市町村に対しては平成15年度までの組織認証システムの整備を要請することになっている(出展:「申請・届出等電子化推進のための基本的枠組み」
 一方、使いやすいユーザーインタフェースとなるとまだまだ試行錯誤の段階であるが、一つ注目すべき技術としてWeb/XMLベースの電子フォーム技術であるXFA(XML Forms Architecture。XFAを実装した製品としてFormFlow99(ジェットフォーム・ジャパン)がある。画面については図を参照)を紹介したい。これはカナダ・JetForm Corporationが次世代の電子フォームアーキテクチャとしてW3Cに提唱しているものである。この技術により申請・届出に必要な様式をブラウザで表示し、そこに記入したデータをXMLで扱える上に電子署名や紙への出力をもサポートするインタフェースの提供が可能となる。
 XFAの利用により、インターネットによる申請・届出様式の配信から完全な電子申請まで同じアーキテクチャ、同じUIで移行させることができるとともに、「紙」での申請プロセ スと「電子」的な申請プロセスをハイブリッドで持つことができ、電子申請の導入を一気に現実的なものとすることができる。

■最近の動き
 今年に入り、電子申請への実現に向け官側、民側でいろいろな動きが活発化してきている。官側では「電子署名及び認証業務に関する法律」の成立(今年5月)等の法制度の整備や、国税申告手続きの電子化に関する取組みなど具体的な実験システムの構築が始まっている。
 また、民間側では各社が電子申請を意識したソリューションを発表しているのに加え、企業連合で電子申請普及のための活動も開始している。今年3月30日に旗揚げした「電子申請推進コンソーシアム」は、7月25日現在で18社(ジェットフォーム・ジャパン(事務局)、ECソフトウェア・ドットコム、NTTデータ、NTTデータセキュリティ、NTTコミュニケーションズ、オプティマムシステムズ、クリックス、KDD、CRC総合研究所、大日本印刷、TKC、デルコンピュータ、日本法令、日本ボルチモアテクノロジーズ、日立ソフトウエアエンジニアリング、日立システムアンドサービス、富士ゼロックス、ワンビシアーカイブズ)、入会に関する問合せは事務局(Tel:03-3340-3775)まで)が参加している電子申請普及のための業界団体であり、電子申請の普及促進のためのさまざまな標準化活動を行っている。本コンソーシアムでは前述のXFAをベースに、
 (1) XMLデータのタグ標準化、(2) セキュリティ技術の検討、(3) 使いやすいUI(ユーザーインタフェース)の検討、を行うとともに、利用者ニーズの吸い上げや、官側とのすりあわせを行っていくことで、各行政機関が電子申請システムを導入する上での基盤となるフレームワーク作りを目ざしている。これらの標準化活動により電子申請システムの導入コストの低減や、各システム間の相互接続性を容易にすることが期待されている。


 今後は電子申請は、Web、XML、電子署名といった技術動向だけでなく、実際どのようなサービスモデルがもっとも利用者にとって使いやすいかが大きな主題となってくると考えられる。技術オリエンテッドから、ユーザーオリエンテッドへ。それは電子申請がいよいよ実用化段階に入ってきた証といえるだろう。

(注)XML(eXtensible Mark-up Language。WWWコンソーシアムが1998年2月に制定したドキュメント記述用言語。HTML(Hyper Text Mark-up Language)やPDF(Portable Document Format)の再利用が行いにくい、拡張性がないなどの問題を解決するとともに、仕様が複雑すぎるSGML(Standard Ganerated Mark-up Language)の問題点が改良されている。主要なツールベンダーなど、多くの企業がXMLを実装する計画を表明している)